小学校でのプログラミング教育必修化目前。「どうやって子どもにプログラミングへの興味を持ってもらおう?」「上達のために、親はどんなサポートができる?」と考える親御さんも多いのでは? そこで今回は、“ロボティクスで世界をユカイに”を掲げ、ユニークな製品を世に送り出すユカイ工学株式会社(以下、ユカイ工学)の代表、青木俊介さんに、プログラミング教育への向き合い方を伺いました。 (撮影:矢島 宏樹)
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この記事のもくじ
今の時代だからこそ必要になるプログラミング
――まずは青木さんが代表を務められているユカイ工学について教えてもらえますか?
はい。ユカイ工学はロボットをつくるベンチャー企業です。戦うロボットというよりも、ドラえもんみたいなかわいいロボットをつくりたくて会社を起こしました。設立当初は少人数だったので、プログラミングからハンダ付け、ロボットのデザイン、3Dプリンター出力まですべて自分たちで行っていました。現在はスタッフも増えて、専門分野ごとに役割分担をしながらさまざまな製品や事業の開発・支援を行っています。
僕の現在の役割は企画の立案です。「こんなロボットが世の中に求められている!」「こんなロボットがいたらかわいいよね?」といったアイデアを考えて、企業に提案することをメインの業務にしています。
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ターミネーターをつくる人に憧れてパソコンに没頭!
――青木さんがロボットに憧れたのは、中学生のときに観た『ターミネーター2』がきっかけなんですよね?
そうなんですよ。僕が映画のなかで一番カッコイイと思ったのは、実はターミネーターをつくる人で。
――ターミネーター自身ではなく?
パソコンをカチカチ打って、画面のなかでグリグリAIをつくっているシーン。それを見て「こういう人になりたい!」と思ったんです。
――ものづくりをする姿に魅力を感じたんですね。
はい。パソコンさえあれば人と会話をするロボットを本当につくれちゃうのかもしれないっていうワクワク感でいっぱいでした。
――それで一気にパソコンにのめり込んだ、と。
いえ、これが話すと長くなるんですが……まず今の親御さんと違って、パソコンに対して理解がなかったんですよ、当時の親は。だからまずはパソコンを買ってもらうところからスタート。やっと買ってもらえても、今度は設定ファイルを書けるように勉強したり、プログラミング環境を整えたり。準備だけで2年以上かかりました(笑)。プログラミングを学べたのは、その後です。
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親から与えられた物に必ず興味を持つわけではない
――今の子どもは、スマホやタブレットなどのデジタル機器に囲まれているにもかかわらず、プログラミングからは遠ざかっている印象を受けます。
別に難しいことを覚えなくても面白いゲームはいっぱいありますし、YouTubeで動画も見られますしね。でもだからこそ、僕はプログラミングを覚えて欲しいと思っています。
――ソフトウェアの仕組みを意識しなくていい時代だからこそ?
はい。どんな子どもも、プログラムされたソフトを使うことはできるようになるんです。たとえばスマホアプリもそうですし、AIだってそうなるはず。でも、プログラミングを知らないままだと、「ただ使う人」になってしまいます。
今後、ますますAIなどへの依存は増えていき、今まで以上に、あらゆる場面でソフトウェアが使われるようになります。そこにただ乗っかるのではなく、少しでも新しいものを付け加えたり、書き換えたりできる人になってほしいですね。
――では、子どもにプログラミングへの興味を抱いてもらうには、どうすればいいでしょうか?
親から与えられたからといって、素直にそれに興味を持つ子どもばかりではありません。でも、「大人が何かすごいことをしている」と思うと、興味を持つのではないでしょうか。
たとえば弊社のエンジニアも、小さい頃から家にパソコンがあって、親の見よう見まねでプログラミングをはじめたようです。教材を与えるだけじゃなく、親が一緒になってものづくりに取り組むのが、興味を持たせるのには効果的だと思います。
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プログラミング教育必修化は子どもにとってプラスになる?
――2020年4月からいよいよ小学校でのプログラミング教育が必修化されます。青木さんはどう感じていらっしゃいますか?
プログラミングは絵や音楽とかと一緒で実技が必要です。だから学校でその機会に恵まれるのはよいことだと思いますよ。ただ、あまり“勉強”というふうに構えるのはよくないかも。
あくまでも僕の経験なんですが……子どもの頃にピアノを習っていまして、あまりいい思い出にはなっていないんです。それは、とにかく教科書どおりに反復練習ばかりをやらされていたからだと思います。
もっと「この人たちと踊りたい」「一緒に音楽を聴いて盛り上がりたい」といったように、“楽しさ”からはじまらないと、音楽がつまらなくなる。それはプログラミングも同じで、やはり教科書から入ってお勉強になっちゃうと、つまらなくなってしまいますよね。
プログラミングとの出会いの“きっかけ”になれば……
——現実的に、学校の授業でプログラミングの考え方や技術は身に付くのでしょうか?
僕としては、あくまでも学校でできるのは導入部分だけだと思っています。学校でオルガンや鍵盤ハーモニカを教わっても、ピアニストになるわけではないですよね? 同じように、学校教育だけでプログラミングが得意な子どもが次々に生まれるというのは難しいと思います。本当に興味がある子は、学校の外でもっと深掘りをしたプログラミングを学ぶことになるでしょう。
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——あくまでも“さわり”まで、ということですね。
ただ、学校でプログラミングに触れて子どもたちが「楽しい!」というイメージを持てれば、大きなプラスになると思います。また、専門家になることはできなくても、誰もが教養として一度でもプログラミングをかじったことがあるというのはすごいこと。学校のプログラミング教育で興味を持つ子どもも絶対いるはずですから。
“楽しむこと”がプログラミング上達の近道
——お子さんがプログラミングに取り組む際、親はどのようなサポートをすればよいのでしょうか?
まずは子どもにプログラミングの面白さを感じてもらうことですね。とにかく楽しみながら学ぶことが大切です。
「単純なルールで賢くなる」が面白い
プログラミングで一番「面白いな」と感じるのって、“賢くできた”ときだと思います。たとえばロボットの場合、ただ決められたとおりに動かせただけじゃダメなんです。そうではなく、壁に近づくとセンサーが反応して、それをきっかけに曲がるとか。こうしたルールをいくつか決めるだけで、障害物を避けながら部屋中を巡れるようにプログラムを組めたときに「単純なルールなのに賢く動かせた」と楽しくなります。
――なるほど、それは確かに大人でも楽しそうです。
あらかじめ障害物があるのを分かった上で、それを避けるような動きをプログラムしても楽しくありません。プログラミングの面白さは、予測できない障害物が現れても、きちんと動くものをつくれるところにあると思います。
――その面白さに気づけたら、確かにプログラミングがより楽しくなりそうです。
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自由な発想を持つことが熱中への近道
うちの子どもにあるプログラミング教材を与えたときの話です。はじめにマニュアルを読みながら組み立てて、その後でタブレットを使って操作をするんですけど「これ、全部言われたとおりにしなきゃダメなの?」ってブーブー言い出して(笑)。でも、きちんと動かすにはマニュアルどおりじゃなきゃいけないので、まったくワクワクしてくれなかったんですよ。
――それは残念……。
でも、あるときマインクラフト(※1)にすごくハマりました。見てみると、自動的に矢を発射したり水を流したりして侵略者を排除する仕組みをつくっていたんです。こうしたカラクリを自由に組み合わせて高度なことを実現するのは、ほとんどプログラミングだなと思います。
――自分の思うままに物を動かせることが楽しさになりますし、自由な発想を養うのにつながるんですね。
※1 ランダムに生成された世界に、 ブロックなどを自由に設置して建築などを楽しむゲームソフト。自由度が高く、無限大の遊び方があるとされる。
誰かを喜ばせる経験がやる気につながる
未踏ジュニア(※2)に応募するような子どものなかには、プログラムを書いて誰かに喜んでもらった経験を持つ子が多い気がします。たとえば「おじいちゃんの顔を見て、元気かどうかを自動判別できる仕組みをつくりたい」なんていう中学生もいたんですよ。
——ものすごくいい話じゃないですか。
身近な人を喜ばそうという気持ちは一番のモチベーションになります。なにより、こうしたやる気は持続しやすいと思いますよ。
※2 独創的なアイデアを持つ小中高生クリエイターへ、各界のメンターや専門家が指導を行い、最大50万円の開発資金援助を行うIPA(情報処理推進機構)のプログラム。
夢を形にするツール、それがプログラミング
——“子どもたちにとってのプログラミング”は、今後どのような存在になってほしいですか?
プログラミングができるといろいろな音を鳴らしたり映像を動かしたり、がんばり次第ではロボットを自在に動かすことだって可能です。子どもにとって、それは夢みたいな世界だと思うんですよね。そう考えると、プログラミングは「夢を形にするツール」になってほしいと思います。
——青木さんも、夢を形にして今はロボットをつくっていますよね。大人にとっても、それは同じだと感じました。
僕が前にいた会社では、ずっと文系で学んできて、20歳を過ぎてからプログラミングを覚えたというエンジニアもいました。はじめるのが遅かったとしても、文系だったとしても、プログラムを覚えることはできると、知っておいていただきたいです。
——最後に、青木さん自身は今後プログラミング教育へどのように関わっていきたいとお考えでしょうか。
うーん、そうですね……めちゃくちゃ、関わっていきたいです(笑)
——シンプル!(笑)
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ふふふ。たとえば当社でリリースした『ユカイな生きものロボットキット』は、“子どもが適当に切ってつくっても動く”という点が特徴です。自由な形がつくれるから、完成系は千差万別。でも、きちんと動くからつまずきにくい。このように、子どもの自由な発想を育むという点が、僕らの製品の一番よいところだと思います。
今後も、子どもたちが夢中になれるものをつくり続けていきたいです。
「プログラムで大切なのは、人を知ることなんですよ」と語る青木さん。誰かに喜んでもらうためには、使う人の気持ちに立つことが重要だと教えてくれました。かわいくて愛嬌があって、子どもの気持ちにしっかり寄り添ったプロダクトを生み出せているのは、こうした考えを持ち続けているからでしょう。
プログラミングに対する興味・関心を子どもに抱いてもらう際にも、この考え方は重要です。単に教材を与えたり、授業を受けさせたりするだけではなく、子どもが何を楽しいと感じるのかを考えること。そして、一緒にプログラミングを楽しむことが、親にとっての最大限のサポートになるでしょう。
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▼Profile
青木俊介(あおき・しゅんすけ)
ユカイ工学株式会社 代表取締役社長。
2001年、東京大学在学中にチームラボを設立し、同社CTOに就任。その後チームラボを退職し、ユカイ工学合同会社を創業する。2008年からピクシブCTOを務め、2011年にユカイ工学を株式会社に変更。同社CEOに就任し現在に至る。
ユカイ工学HP(https://www.ux-xu.com/products)
▼記事中の製品
しっぽのついたクッション型セラピーロボットQoobo(https://qoobo.info/)
ユカイな生きものロボットキット(https://kurikit.ux-xu.com/robotkit/)