鯨はどうして海の中で呼吸できるの?長く息を止められる体の仕組み
公開日: 2024/02/28
世界最大の動物でもある鯨は、私たちと同じ哺乳類なのに大海原を自由に泳ぎながら生活しています。私たちと同じ体の仕組みであれば、呼吸が苦しくなってしまうので、長い時間水中で過ごすのは難しいはずです。鯨は一体どのようにして水中での生活に適応しているのか、考えてみましょう。
鯨の呼吸の方法は?
哺乳類が水中で活動するとき、大きな問題となるのは呼吸です。例えば、人間が泳ぐときは、小まめに水面から顔を出して新鮮な空気を取り入れる必要があります。しかし、鯨は長時間水中で泳ぎ続けることができ、ときには数千メートル下の深海までもぐることもあるそうです。鯨の呼吸は私たちの呼吸とどのように違うのか、疑問が湧いてきませんか?
鯨は人間と同じ肺呼吸
実は、鯨の呼吸と私たち人間を含めた陸上の哺乳類の呼吸は基本的に同じです。どちらも肺に空気を吸い込んで酸素を取り入れ、二酸化炭素を吐き出しています。肺では血液を通して送られてきた二酸化炭素を受け取って、全身に送る酸素と交換します。
世界で大きな鯨の1つであるシロナガスクジラは、1回の呼吸で数千リットルの空気を吐き出すと言われています。ちなみに、人間の普段の呼吸は1回あたり0.5リットルぐらいなので、鯨のスケールが桁違いに大きいことが分かります。しかし、体全体の大きさとのバランスを考えると、そこまで極端に肺が大きいこともないようです。
鯨の鼻は海でも呼吸しやすい場所にある
鯨の鼻は海でも呼吸しやすいように頭の上部に付いています。このおかげで、鯨は体の大部分を水中に残したまま、鼻だけを海面に出して空気を取り入れることができます。
鯨の潮吹きの仕組み
鯨と言えば潮吹きが有名ですが、この潮吹きの正体は鯨の呼吸です。息を吸い込むためには、しっかりと息を吐き出す必要がありますよね。鯨の大きな体に取り込んだ空気を勢いよく吐き出すと、海水が吹き飛ばされて噴水のように見えます。また、鯨の体温で暖められた空気と周囲との温度差によって、白っぽく見えることもあります。
鯨が水中で長く息を止めていられる体の仕組み
鯨の呼吸法は人間とあまり変わらないのに水中で長時間活動できるのは、何か他に水中での生活に適応した仕組みがあるはずです。つぎは、ミクロな視点で鯨の特徴を見てみましょう。
長く呼吸を止められる体の仕組み
肺に取り込まれた酸素は、血管を通って全身に運ばれます。このとき、酸素の運搬を担当するのはヘモグロビンやミオグロビンというタンパク質です。これらのタンパク質は工場で作られた製品を家庭に運ぶトラックのような働きがあります。
鯨のように水中で生活する哺乳類は、ヘモグロビンやミオグロビンの量が多いことが知られています。特にミオグロビンは酸素を貯めておく能力が高いので、ヘモグロビンが運ぶ酸素を使い切ってしまった後に使う予備の酸素を確保できます。
海に生息する動物と言えば魚類ですが、魚は「エラ」を使って水に溶けた酸素を体に取り込んでいます。肺に空気を取り込む哺乳類の肺呼吸とエラ呼吸は全く異なる仕組みです。
泳ぎの名手?鯨の潜水能力
体の中にたくさんの酸素を貯めておけることに加えて、鯨はその流線型の体を滑らかに使って効率的に泳ぐことも得意です。無駄なエネルギーを使わずにすむので、酸素の消費量を抑えながら活動できます。
種類によっても異なりますが、鯨は1時間以上も水中で活動ができます。この能力を活かして、鯨は時に数千メートルの深さまでもぐりながら餌を探すことができるようです。興味深いことに、マッコウクジラの体に深海にすむダイオウイカのものと思われる吸盤の痕が残っていることがあります。私たちが目にすることがない海の深いところでは大型動物達の激しい戦いが繰り広げられているのかもしれません。
鯨と同じ呼吸方法の動物は?
鯨と同じように、哺乳類なのに多くの時間を海中で過ごしている動物は他にもたくさん存在します。それらの哺乳類のことを「海洋哺乳類」や「海生哺乳類」と呼びます。
鯨と同じ肺呼吸をする海洋哺乳類
海洋哺乳類は陸上の哺乳類と同じような体の仕組みを持っていて、肺を使った呼吸を行います。海洋哺乳類の体は鯨と同じように、水中の生活に適応した機能を備えています。
海洋哺乳類と呼ばれるのは、鯨やイルカの仲間、ジュゴンやマナティーなどの海牛、アシカやアザラシなどの鰭脚類(ききゃくるい)、ラッコの仲間などです。
① 鯨やイルカの仲間
実は、生物学的な分類ではイルカと鯨の間に明確な区別はありません。鯨は、ヒゲクジラとハクジラのグループに分けられますが、このハクジラの仲間のなかで小型のものがイルカと呼ばれています。成体の体長がおよそ4メートル以下ならイルカとするという一応の基準はありますが、厳密なものではないようです。
② ジュゴンやマナティー
ジュゴンやマナティーは、人魚のモデルになったとも言われている海洋哺乳類です。体のフォルムは鯨に似ていますが、前あしのような胸ヒレに特徴があります。日本では沖縄県でジュゴンが観察されることがあります。沖縄のジュゴンは特に個体数が少なく、絶滅の危険性が高いと言われています。
③ アシカやアザラシ
かわいらしい見た目で人気のアシカやアザラシも肺呼吸を行う海洋哺乳類です。陸地でも生活できますが、餌となる魚などを捕まえるために水中を自由自在に移動します。鯨と同じように、豊富なヘモグロビンやミオグロビンの働きによって、数十分もの長い時間水の中で活動できます。
④ ラッコ
ラッコはイタチ科カワウソ亜科に分類される小型の哺乳類で、他の海洋哺乳類とは少し違って全身が体毛に覆われています。ラッコは毛深い哺乳類の一種と言われていて、縦横1センチメートルの範囲に10万本も毛が生えています。この毛の間にたまった空気がダウンジャケットのような効果を発揮して、寒い地域での活動を助けています。
ちなみに、ラッコと同じカワウソ亜科に分類されるカワウソは、川や湖の近くで陸上と水中を行き来しながら生活しています。英語でカワウソは「otter」、ラッコは「sea otter」(海のカワウソ)と呼ばれることからもわかるように、両者には似ている点が多くあります。
海洋哺乳類は別々の進化ルートで似た機能を獲得してきた
海洋哺乳類という分類は、進化の歴史に沿って振り分けられたものではありません。鯨やジュゴンやアザラシは、進化の早い段階で分かれたあと、それぞれが海に適応する進化を遂げてきました。流線型のなめらかなボディやヘモグロビンやミオグロビンの働きなど、科学的に見て理にかなった機能を別々に獲得するのはおもしろい現象ですね。
鯨と他の海洋哺乳類を比べてみよう
鯨は、哺乳類でありながら海の中に長い時間もぐり続けて活動できる変わった生き物です。鯨の体の仕組みは、水中での生活に適応するように長い時間をかけて進化してきました。他の海洋哺乳類との共通点や違いに注目すると、哺乳類が海で生きていくための能力を獲得する進化のメカニズムにも興味が湧いてくるのではないでしょうか。
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