STEM教育とは?注目される背景や海外・日本の現状、家庭でできる準備
公開日: 2022/03/09
近年、21世紀型の新しい教育として日本で「STEM(ステム)教育」の導入が始まっています。STEM教育は幼いうちからロボットやIT技術に触れることができ、「自分で学ぶ力」を養えるのが特徴です。
日本でSTEM教育が導入され始めたのは最近のことですが、アメリカやシンガポール、インドなどでは何年も前から導入されており、国主導の教育カリキュラムとしてSTEM教育を重要視している国もあります。
今回は、STEM教育がどういったものなのか、国内外の現状、そして家庭でできる準備などをご紹介しましょう。
- 目次
- STEM教育の概要と目的
- STEM教育の重要性
- STEM教育が注目される背景
- 海外のSTEM教育への取り組み事例
- 日本におけるSTEM教育の状況
- STEM教育を実施するうえでの課題・問題点
- STEM教育が普及するに当たって家庭でできる準備
- STEM教育は子供たちの未来に欠かせないシステム
STEM教育の概要と目的
STEM教育の「STEM」は、Science(科学)・Technology(技術)・Engineering(工学)・Mathematics(数学)の4部門の頭文字をとった言葉で、今後アメリカを中心とした世界経済の成長に必要不可欠な要素だとされています。
STEM教育の目的は、子供のうちからSTEM要素の教育を受けさせることで、AI時代やグローバル社会に適応できるスキルの高い人材を養うことです。STEM教育にはさまざまな要素を加えたバリエーションも存在しますので、主流なものを2つ紹介します。
●芸術を加えたSTEAM(スティーム)教育
STEAM教育は、STEM教育に「Art(アート)」を加えた教育です。基本はSTEM教育の考え方と同じですが、STEM教育に加えて創造性や独創性を活かすことで、現実社会での問題解決力が高い人材を養うという目的があります。
●ロボット工学を加えたSTREAM(ストリーム)教育
STREAM教育とは、STEM教育に「Art(アート)」と「Robot(ロボット)」が加わった次世代スキルの教育分野です。
AI技術が急速に進化する中、高いロボット技術やAIが苦手とするクリエイティブな領域を学ぶことで、ロボットを使いこなせる人材を生み出そうという狙いがあります。
STEM教育の重要性
STEM教育の現場ではよくプログラミング教育が採用されています。それは、プログラミングで養える「論理的思考力」や「問題解決力」が、AI時代やグローバル社会で活躍する人材となるために重要だからです。ここでは、プログラミングを用いたSTEM教育で身につく2つの能力を説明します。
●論理的に考える「論理的思考力」が身につく
STEM教育では、意図した動きをさせるために何が必要かを考える「論理的思考力」が身につきます。
たとえばプログラミングで動きをつくるためには、どのように動きを組み合わせればよいのか考えなければいけません。「ジャンプをする」であれば「上へ移動する」「下へ移動する」を組み合わせます。このように動きを組み合わせる過程で、ものごとを順序立てて考える論理的思考力が養われます。
●課題を見つけ、解決する「問題解決力」が身につく
プログラミングなどのSTEM教育のツールでは、仮説を立てて試行錯誤することで「問題解決力」が身につきます。実際につくったものを動かし、うまく動かなかった場合はどこに原因があるか検証し、修正して動かすというトライ&エラーを何度も繰り返すことができるからです。
実世界でも、仮説を立てて検証しながら問題解決をすることはビジネスや社会で生活するうえでは同じです。STEM教育を通して、ビジネスや社会で生きていくうえでの考え方を学ぶことができるのです。
STEM教育が注目される背景
STEM教育では、理数系4つの分野を重点的に学ぶことによって、テクノロジーやビジネスといった幅広い分野に対応できるスキルが身に付くと考えられています。これは長い目で見れば、AIなどの高度な科学技術が求められる時代で、自国の優位性を保つための国家的戦略にもなるのです。
●注目のきっかけはオバマ元大統領
そもそもSTEM教育が注目され始めたきっかけは、アメリカのオバマ元大統領が国の重要な教育対策として取り上げたことです。そこから一気に広がりました。
オバマ元大統領は、2009年の就任時に「科学を本来あるべき地位に戻す」と演説し、幼稚園から高等学校におけるSTEM教育を向上させるため、年間数十億ドルという膨大な予算を投入しました。現在に至るまで子供がパソコンやタブレットを使うことはもちろん、プログラミングの授業も導入されており、優秀な教育者の育成にも力を注いでいます。
こうしたSTEM教育の取り組みの波が次第にヨーロッパやアジアといった世界各地へ広がり、現在では世界的な取り組みとして掲げられているのです。
●AI時代の必須スキルとも関係
STEM教育は国が優位性を保つための戦略だけにとどまらず、今後迎えるAI時代に求められるスキルにも深く関連しています。
これまでの日本は、系列会社や下請け会社といった家族的な企業が中心の社会でしたが、グローバル化が進む現代では、AIやロボットといった最先端の科学技術を取り入れた企業が主流になりつつあり、それとともに求められるスキルも変わってきています。この「求められるスキル」というのがSTEM教育で養える力です。そして代表的なSTEM教育のツールが、プログラミングです。
プログラミング教育は、前述した通りAI時代の子供が大人になって社会で活躍するために重要です。日本でも2020年から小学校でのプログラミング教育が必修化されましたが、海外には日本より前に小学校でのプログラミング教育が導入されている国が多くあります。
プログラミング教育は、STEM教育の中でもAI時代の必須スキルが学べるとして世界中で重要視されているため、各地で導入されているのです。
海外のSTEM教育への取り組み事例
アメリカや欧米はSTEM教育先進国ですが、シンガポールや台湾、インドなどアジアの地域でもSTEM教育は盛んになっています。どの国や地域でも国家が主体となってSTEM教育を実践しているのが特徴です。いくつか例を紹介します。
●シンガポール
シンガポールでは、数学の授業は小学校1年生から、理科の授業は小学校3年生からスタートします。高校生になると2科目とも専門教員が教えるという徹底ぶりです。さらに国営のSTEM教育施設もあります。
●台湾
台湾では日本の小学校・中学校・高等学校に相当する学校において、STEM教育を重視したMaker教育が普及しています。Maker教育とは、「つくることから学ぶ」教育です。3Dプリンタやレーザー加工機材などを導入し、家具やおもちゃの製作、LED照明機器の製作などを行っています。
●インド
インドでは2015年から6歳~18歳の子供たちを対象に、科学技術を学べる「Rashtriya Avishkar Abhiyan」 というプロジェクトがスタートしています。
日本におけるSTEM教育の状況
日本でのSTEM教育は、アメリカなどに比べて遅れてはいるものの、文部科学省を主体にして改革が進んでいます。
●文部科学省による学習指導要領の見直し
文部科学省によって学習指導要領が見直され、新たな授業が導入されています。小学校のプログラミング授業の必修化に加え、中学校の技術・家庭科でのプログラミング学習の充実もSTEM教育の一環と言えるでしょう。また、高等学校でも2022年度より理数科の授業が始まります。
●スーパーサイエンスハイスクール(SSH)などの設置
次世代人材育成事業では、スーパーサイエンスハイスクール を設置しています。全国に200以上ある指定校では、課題研究や発表会などの取り組みがあります。
STEM教育を実施するうえでの課題・問題点
STEM教育の導入に後れを取っている日本ですが、少しずつ学校の授業としてのSTEM教育が実現してきています。しかし課題はまだあります。
●STEM教育の指導者が少ない
STEM教育の指導者が少ないことが課題のひとつです。特にプログラミングを教えようとすると、大学から教授を招いて招待講演したり専門の教員を育成したりすることが必要になるでしょう。
日本にはSTEM教育専門の教員育成機関がないため、専門的なSTEM教育の実践には指導者が少ないことが問題になってしまうのです。
●統一されたカリキュラム・教材がない
STEM教育を実践しようとしても、統一されたカリキュラムや教材がありません。文部科学省から「小学校プログラミング指導事例集」 の公開がされてはいますが、どのように取り組むかは学校の方針や教員により異なります。STEM教育に積極的かどうかが学校によるということも問題です。
STEM教育が普及するに当たって家庭でできる準備
現状では課題もありますが、日本では今後AI技術の発展とともにAI時代に求められる力をつけるためのSTEM教育も普及していくことが考えられます。
そのため、子供たちだけではなくご両親も含めて、今から準備をしておくことが大切です。STEM教育の準備は家庭でもできます。ぜひ子供と一緒に家庭でできるSTEM教育に触れてみましょう。
●STEM教育ツールで子供と一緒に遊ぶ
STEM教育の普及に備えて、今からSTEM教育ツールに触れておくとよいでしょう。STEM教育ツールとは、プログラミングが学べるサイトやアプリ、おもちゃのことで、最近ではゲーム感覚で学べるものも多く、プログラミングに触れるのが初めての子供でも取り組むことができます。
また、STEM教育ツールは対象年齢が幅広く、大人も楽しむことができます。子供と一緒に遊ぶことで家族そろってSTEM教育に備えることができるでしょう。
●ものづくりや科学に触れさせる
プログラミングは、アイデアを形にするものづくりの一環です。早いうちからものづくりに触れておけば、プログラミング教育が始まったときにスムーズに受け入れることができます。小学生から通えるプログラミング教室もあるため、子供の興味に合わせてスクールに通わせるなど、習い事をさせるとよいでしょう。
STEM教育では科学や工学などの理系の分野も重点的に学ぶこととなるため、科学実験教室やロボット製作教室に通ったり、科学教育の動画を見たりするのもおすすめです。
STEM教育は子供たちの未来に欠かせないシステム
STEM教育は世界的に優れた人材を育成し、将来AI時代に求められるスキルを子供のうちから身につけるという目的があります。
今後はさらに科学技術が発展すると予測されていますから、STEM教育の導入は子供たちの可能性を広げ、子供たちがより良い生活を送るために重要になるでしょう。
日本はアメリカなどの外国に比べてSTEM教育の導入が後れていますが、水面下では普及に向けての準備が着々と進んでいるため、STEM教育の認知度や重要性も理解されつつあります。今からSTEM教育についての正しい知識を身につけ、親子で準備をしておくことがおすすめです。
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