STEAM教育におけるA(アート)の役割や身に付く能力、学ぶ方法
公開日: 2022/03/30
STEAM教育の原型はSTEM教育です。Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ってこう呼ばれています。AI(人工知能)などの急速な技術革新により、様々な分野の仕事が将来自動化されると考えられています。そんな中、ITや科学技術などに幼い時から触れて、人間ならではの創造性や生きる力を育むために多くの国で実践されています。 STEMにArt(芸術や教養)を加えたのがSTEAM教育です。文理の枠を超えて総合的に学ぶことで、実社会での問題解決能力や創造力などを育成します。STEAM教育は欧米やシンガポールなどでは国家戦略として推進されています。日本でも、2020年度からSTEAM教育の一環としてプログラミングが小学校で必修化されました。 理系分野になぜ、アートが加えられたのでしょうか。今回は、STEAM教育におけるアートの役割や、アートによって身に付く能力、学ぶ方法をご紹介しましょう。
STEAM教育におけるアートとは?
STEM教育にAを加えたSTEAM教育を提唱したのは、アメリカのバージニア工科大学の大学院生であったジョーゼット・ヤックマンでしたが、その重要性を広く認知させるには至りませんでした。STEAM教育を世に広めたのは、ロードアイランド造形大学の学長だったジョン・マエダです。ここでは、ジョーゼット・ヤックマンとジョン・マエダのアートに対する考え方の違いと、日本でのアートの捉え方についてご紹介します。
アメリカにおけるアートとは?
STEAM教育発祥の地であるアメリカでは、アートの捉え方は主に2つに分けられます。STEAM教育を提唱したジョーゼット・ヤックマンのアートとは、美術分野にとどまらず、語学などのコミュニケーション、自然科学、社会科学、人文科学などのリベラルアーツを重視し、細分化された分野のつながりや全体性を目指したものです。一方、STEAM教育を広く世に知らしめたジョン・マエダはアートを美術、デザインとして、美術分野の専門性の活用を強調しています。
日本でのアートの捉え方
STEAM教育のアートが表す範囲は、その捉え方により異なってきます。文部科学省は、アートの範囲を美術やデザインのみに限定せず、リベラルアーツの考えに基づき、音楽、文学、歴史など広い学習範囲を取り入れていくとしています。また、従来の理系、文系の枠にとらわれずに多様な分野での学習を活かし、実社会での問題発見や解決に活かしていくとしています。
アートが重要視される理由
従来のSTEM教育に対して、なぜアートが加えられ、重要視されているのでしょうか。学習意欲の喚起と、創造力の養成という2つの視点から解説いたします。
学習意欲を喚起するアート
アートは子供の学習意欲を喚起することに役立ちます。STEMの範囲である科学、技術、工学、数学のみのアプローチでは、理系の分野が苦手な人や興味がない人は、学習意欲が湧きにくいです。「プログラマーになるつもりがない子供が、なぜプログラミング教育をしないといけないのか」と疑問に思った方もいるでしょう。しかし、STEAM教育におけるプログラミング教育は、プログラミングを学ぶためだけの取り組みではありません。プログラミング教育により思考力や創造力を養いながら、国語や音楽や社会や理科の学習内容も取り入れて学びます。理系だけではなく、文系、芸術の分野に関心のある子の知的好奇心や探求心にもアートを加えることでアプローチできます。
創造力を養う
アートが創造力の養成にも寄与します。AI(人工知能)の技術革新が急速に進み、社会が大きく変化しています。ニューヨーク市立大学教授であるキャシー・デビッドソン氏が2011年8月に「2011年度にアメリカの小学校に入学した子供たちの65%は、大学卒業時に彼らが小学生の頃には存在していなかった職業に就くだろう」と発言しました。学校で学んだ各教科の知識を身に付けているというだけではなく、知識を上手に活用して新たな価値を生み出すために、美術やデザイン分野で養われる創造性が重視されています。
STEAM教育のアートで学べること
STEM教育にアートが加わることによって、どのような学びにつながるのでしょうか。多様な分野の知識を活かすことで創造性を高められる点と、テクノロジーと美術、デザインの関係についてご紹介します。
多様な知識を活かしてより良い創造が行える
アートを加えたSTEAM教育を学ぶことで、様々な分野の知識を活かしながらより良い創造が行えます。従来の教育では、国語なら読み書き、算数なら計算とそれぞれの教科ごとに学びました。しかし、実社会ではあらゆる分野が複雑に交わりながらものづくりが行われ、サービスが提供されているため、多様な分野の知識を総合的に活用できる能力も必要です。STEAM教育では文系、理系問わずに各分野を横断して総合的な学びにつなげます。異なる分野の知識を活かしながら、新しい課題の発見や価値の創造を行うことを目指します。また、教科横断の学びによって、あらゆる専門分野の人とスムーズにコミュニケーションをとり、共同で創造しやすくなります。自分の専門分野はあっても、他の分野とのつながりを意識することでより良いものを生み出せます。
テクノロジーを使ったデザイン
テクノロジーを使ったデザインも学べます。美術、デザイン、音楽の分野は現代では相互に密接な関係があります。漫画や絵本などを制作するためのアプリケーションやソフトもあり、手描きせずにデジタルツールを活用するプロの方は少なくありません。子供向けのプログラミング教材でも、自分で描いたキャラクターを動かしたり、作曲したりとデザインや音楽に特化したものもあります。子供が興味のある美術や音楽を楽しみながら、プログラミングを自然と学べます。
STEAM教育のアートを学ぶための方法
ここからは、アートを学ぶための方法をご紹介します。アートの分野に限らず、STEAM教育の分野では学ぶ人の主体性が大切です。親や先生が一定の答えを押し付けるものではなく、子供たちが自由に選び表現する必要があります。
ロボット教室に通う
ロボット教室では、レゴブロックなどでロボットを組み立て、プログラミングによって動かします。子供たちの自由な発想や創造性を尊重し、オリジナルの作品にこだわる教室もあります。そうした教室なら、子供一人一人の視点や感性が磨かれやすいです。
デジタル絵本作り
お絵描きが好き、物語を作るのが好きという子供には、デジタル絵本作りがおすすめです。絵を描き、組み合わせること、物語を作ることで、思考力や表現力が養われます。他の人が作った作品を読み、その作りを学べるアプリもあります。インターネット上で公開できるので、離れた場所に住む人とも学び合うことが可能です。
プログラミングでの曲作り
音楽とプログラミングは親和性が高く、簡単なビジュアルプログラミングを組むことでオリジナルの曲が作れるアプリもあります。
芸術鑑賞、博物館巡り
創造性を発揮するには、まず下地となる教養が必要です。素晴らしい作品に関する知識がインプットされていることで、それらが頭の中で組み合わされて新たな作品が生み出されるのです。現在ではオンラインでの美術鑑賞や、ワークショップなども盛んなため、上手に活用すれば自宅でもさまざまな作品に巡り合えます。
子供たちの多様な興味や関心に寄り添う
STEAM教育のアートには、美術やデザインの活用と、それに加えてリベラルアーツの幅広い範囲を総合的に学ぶことを意味しています。従来のSTEMの理系分野だけではなく、文系や美術の分野も網羅しているので、その分子供たちの興味を引くことが可能です。例えば、数学や物理が苦手でも、好きな分野と総合的に学ぶことで、新たな知的好奇心を引き出すことができるかもしれません。また、自分とは違う感性や能力を持つ人とともに取り組むことを学び、実社会での問題解決につながる探求心やコミュニケーション能力を養うことができます。多様なSTEAM教育がある中で、家庭ではそれぞれの子供に適したものを選ぶことが大切だと言えるでしょう。