ペーパークロマトグラフィーとは?色が変わる仕組みを実験で学ぼう!

公開日: 2019/08/09

水性ペンで文字を書いた時に、にじんでしまったり、紙の裏側に染みてしまったり、そんな経験はありませんか?また、にじんだ色をよく見てみると、黒色のペンで書いたのに、にじんでいる部分がうっすらと青っぽく見えたりしたことはないでしょうか。実は、インクは1色に見えたとしてもいくつかの色が混ざって作られていることがあります。今回は、ご家庭にある道具であっという間に科学実験ができてしまう、ペーパークロマトグラフィーのご紹介をします。

目次
ペーパークロマトグラフィーの基礎知識
実験に必要なもの
ペーパークロマトグラフィーを使った実験の手順
ペーパークロマトグラフィーの仕組みがわかるおすすめ動画
工作アートにもなるペーパークロマトグラフィーは自由研究にぴったり

ペーパークロマトグラフィーの基礎知識

ペーパークロマトグラフィーとは

ペーパークロマトグラフィー(paper chromatography)は、紙と水やアルコールなどの液体溶媒を使って簡単にできるクロマトグラフィーの一種です。

クロマトグラフィーとは

クロマトグラフィー(chromatography)とは、混合物を分離させる仕組みのことです。ロシアの植物学者が、植物の色素を分離しようとしてこの方法を発見しました。自然界に存在する物質のほとんどは混合物となっていて、そのままでは物質に含まれる成分それぞれについての固有の特徴や性質を知ることができません。そこで、何らかの仕組みを使って混合物を純粋な物質に分離する必要があったのです。

クロマトグラフィーは、今から100年以上前に発見された分離方法ですが、今でも化学、医学、薬学など幅広い分野で活用されていて、私たちの生活に役立てられています。ペーパークロマトグラフィーの他にも、分離に使う物質などによって、ガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなど、さまざまな種類のクロマトグラフィーがあります。

色が分離する仕組み

今回のペーパークロマトグラフィーの実験では、水性ペンのインクを分離させてみます。なぜインクが分離するのでしょうか?

クロマトグラフィーでは、「固定相」と「移動相」という2つの相の中を、試料(混合物)が移動して分離されます。ペーパークロマトグラフィーの場合には、紙が固定相、水が移動相、水性ペンのインクが試料です。紙を水に入れると、水は紙繊維の間を毛細管現象によって上昇していきますが、この時に溶媒となる水に溶けだしたインクは溶液となって一緒に移動していきます。

ところが、インクに含まれている色素は、それぞれの色素によって水との仲の良さである親水性が違っています。親水性が良い色素は水によく溶けて紙繊維を上昇しやすいのですが、親水性の悪い色素は水に溶けにくいために紙繊維に吸着されやすく、徐々に上昇しなくなって取り残されます。つまり、色素の種類によって上昇する高さが異なるため、色が分離されるのです。

実験に必要なもの

・コーヒーフィルター(白いもの・2~4人用)数枚
・半紙や画用紙、コピー用紙、ろ紙などの紙を数種類
・透明のコップ(プラスチックカップでもOK)
・割りばし(割れていないもの)
・水性ペン数本
・油性ペン数本
・はさみ
・水
・消毒用アルコール
・除光液

ペーパークロマトグラフィーを使った実験の手順

ではさっそく実験をしていきましょう。いくつかのパターンをご紹介していきます。

(実験1)色が分離する様子を観察しよう

1.コーヒーフィルターを細長い形(幅1~2cm程度)に切り出して3枚の短冊状にする
2.透明なコップに高さ2cmくらいになるまで水を入れる
3.(1)で用意したコーヒーフィルターの下から2cm程度の場所に、水性ペンでしるしをつける
4.(3)でしるしをつけたコーヒーフィルターを割りばしに挟む
5.(4)の割りばしをコップの上に置いてコーヒーフィルターの端を静かに水につける(※インクが直接水につかないように注意しましょう)

それぞれのインクによって、水が上昇するスピードや高さ、分離した色の数や種類について確認してみましょう。どの色が何色と何色で作られていましたか?結果を写真に撮ってまとめると、わかりやすいですよ。

(実験2)同じ色でもメーカーが違うと分離の結果は変わるか?

同じ色のペンでも、メーカーを変えると結果に変化があるかどうかを実験してみましょう。
メーカーによって、同じ色であっても含まれている色素の種類や数が違っていることがわかります。また、色素が上昇する高さや、色のにじみ方には違いがないかを確認してみましょう。

(実験3)同じ水性ペンは同じ結果になる?

同じ水性ペンを使い、コーヒーフィルターにつけるしるしの大きさも同じようにして実験をした場合、結果が毎回同じになるかどうか確認してみましょう。ほぼ同じ条件で実験をしたのであれば、同じような高さまで水は上昇し、分離する色の数や種類も同じになるはずです。

(実験4)展開溶媒の種類を変えるとどうなるのか

移動相となる液体の種類を変えてみたらどうなるでしょうか?水の代わりに消毒用アルコールを溶媒として使い、水の場合と違いがあるかどうかを確認します。

手順
1.透明なコップを2つ用意し、片方には水、もう片方には消毒用アルコールを高さ2cmくらいになるまで入れる
2.短冊状にしたコーヒーフィルターの下から2cm場所に、水性ペンでしるしをつける
3.(2)のものを、実験する色やメーカーごとに2枚ずつ用意し、割りばしに挟む
4.(3)の割りばしを、水の入ったコップと消毒用アルコールの入ったコップそれぞれの上に置き、コーヒーフィルターの端を静かに水につける

同じ色で同じメーカーの水性ペンを使っているのに、水が上昇する速さや分離する色素の数、色素の発色する順番が異なっていることがわかります。インクに含まれている色素は、液体の種類によって溶けやすさが違っています。そのため、水とアルコールとで比べると、紙繊維に吸着しやすい色素が変わってくるのです。

(実験5)紙の種類を変えるとどうなるのか

固定相となる紙の種類を変えてみたらどうなるでしょうか?種類の異なる紙をコーヒーフィルターと同じ形に切って用意し、同じ水性ペンを使って実験してみましょう。水が上昇する速さや色素の数に違いがないかを確認してみましょう。
水を吸いにくい種類の紙を使った場合には、紙繊維の中を水が上昇しにくいため、色素が分離しにくいことがわかります。

(実験6)油性ペンの色素は分離できる?

これまでは、水性ペンを使ってペーパークロマトグラフィーの実験をしてきましたが、油性ペンの色素も分離してみましょう。そのために、水の代わりに除光液を使って実験をします。
(実験4)と同じように、水と除光液の2種類の溶液を入れたコップを用意して実験をします。油性ペンの色素は分離できたでしょうか?どんな色素に分離できたのかを確認してみましょう。

ペーパークロマトグラフィーの仕組みがわかるおすすめ動画

今回の実験の概要がわかりやすい動画をご紹介します。手順や必要な道具について見ておくとわかりやすく、実験をスムーズに進めやすいです。また、動画を先に見ることによって実験への興味がわき、飽きずに実験を進めやすくなります。

工作アートにもなるペーパークロマトグラフィーは自由研究にぴったり

この記事では、ご家庭にある道具で簡単に、すぐにできてしまうペーパークロマトグラフィーの実験方法をご紹介しました。使う溶媒や紙の種類を変えることによって、実験のバリエーションも豊かになります。
紙の形や水性ペンでの色の付け方を工夫すれば、工作アートにもなりますので、「どんな紙を使ったらどんな模様ができるかな?」と予想しながら実験をすると楽しく進められます。また、中学生のお子さんであれば、液体を吸い上げる速度の違いと液体の粘度の違いや紙繊維の密度の違いに着目して実験内容を変えてみてもよいでしょう。
ぜひ夏休みの自由研究として取り組んでみてくださいね。

参照:
国立研究開発法人産業技術総合研究所『ドリームラボ科学実験コーナー ペーパークロマトグラフィー』
https://www.aist.go.jp/science_town/dream_lab/dream_lab_12/dream_lab_12_01.html


西川計測 株式会社 『分析基礎知識 クロマトグラフィーとは?』
http://www.nskw.co.jp/analytical/technical/knowledge/chromatography.html

一関工業高等専門学校『創成化学工学実験 ~平成30年度~ 10班 ペーパークロマトグラフィー』
http://www.che.ichinoseki.ac.jp/sosei/hei30/hei30-10.html

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