ドーナッツ化現象とは?原因・問題点を知って対策を学ぼう!
公開日: 2023/07/29
私たち人間が住む都市は、成長や衰退を経験しながら長い年月をかけて少しずつその姿を変えてきました。近年では、都市の発展を自然に任せてしまうと社会にとって不都合な問題が生じることが分かり、国や地方自治体を中心に対策が進められています。この記事では、都市が大きく発展する時に起こりやすい「ドーナッツ化現象」について、その特徴や問題点、対策について解説します。
ドーナッツ(ドーナツ)化現象とは?
ドーナッツ化現象とは、都市とその周囲の地域の発展パターンを表す言葉で、その名前は食べ物のドーナッツに由来しています。ドーナッツ化現象は、都市の中心部の居住人口が減少し、反対に都市の周囲の地域(郊外)で居住人口が増加することです。この現象が進行すると、人口の少ない都心部を人口が多い郊外地区が取り囲むドーナッツのような形になります。
ドーナッツ化現象が進行する背景は?
ドーナッツ化現象の背景には、都市が発展するにつれて都市の中心部が居住地としての魅力を失っていくことです。具体的には、次の3つのポイントが大きな理由としてあげられます。
・都心部の土地価格(地価)の高騰
都市が商業的に発展していくと都市の中心部にある店舗やオフィスビルは大きな金銭的利益を期待できるようになります。すると、多くの企業が商業的に魅力的な中心部の土地を買おうとするので、中心部の地価が高くなっていくのです。この傾向が進むと、中心部の住宅の購入価格や家賃が高額になるので、中心部から都市の周囲に移り住もうとする人が増えていきます。
・都心部の住環境の悪化
商業的に発展した都心部は仕事や買い物にとても便利です。しかし、多くの人が都心部に移り住むと、都心部の人口が過剰になり住環境が悪化していきます。具体的な問題点には、先ほど解説した住宅の金銭的負担に加えて、交通事情の悪化、騒音や大気汚染、自然が極端に少ないといったものが考えられています。
・郊外の住みやすさの向上
反対に、都市が発展するにつれて郊外には住みやすい環境が作られる傾向です。ここでいう郊外とは、都心部に隣接した地域のことで、多くの場合、都心部への交通手段が整備されています。近年では、郊外に大規模な住宅地が形成されることが多く、それに合わせて大きなショッピングモールや病院、学校なども整備されています。都心部に比べて、郊外では住宅にかかるお金が少なく済むメリットがありますし、公園や自然に恵まれていることも魅力の一つです。このような背景から、都心部は仕事や遊びに行く場所であって、住む場所は郊外が良いと考える人が増え、ドーナッツ化現象が進行していきます。
ドーナッツ化現象はなにが問題なの?
ここまで解説した内容を見ると、ドーナッツ化によって都心部と郊外がそれぞれの魅力に合わせて役割を分担しているようにも見え、特に問題は無いようにも見えます。しかし、ドーナッツ化現象が進行するにつれて、さまざまな問題点が指摘されるようになってきました。
・都心部における夜間のゴーストタウン化
まず大きな問題となるのが、都心部が空洞化した結果、特に夜間においてゴーストタウンになってしまう現象です。日中は都心部で働く人達が集まるので活気がありますが、その人たちはその地域に住んでいないので、夜になると地域の人の数が大きく減少します。このような状況では、その地域で生活する人にとって重要な施設の維持が難しくなってしまいます。例えば、古くから地域の生活を支えていた学校や商店街の活気が失われてしまった例が知られています。
・郊外で起きるスプロール現象
ドーナッツ化現象は、郊外でも問題を引き起こす可能性があり、その一つがスプロール現象です。英語のスプロール(sprawl)とは、無秩序に広がる、だらしなく伸びる、といった意味の言葉です。ドーナッツ化現象によって、都心部から外側に向かって無計画に都市が拡大してしまう傾向があるので、このような名前が付けられました。スプロール現象の問題点はさまざまなものが指摘されていますが、特に大きな点は都市が効率的なものでは無くなってしまうことです。人が現代的な生活を送るためには、住宅以外にも多くのものが必要です。学校や病院のような施設に加えて、交通機関や道路、上下水道や送電網などが整備されていることが重要です。このように生活に重要なものを総合して「インフラストラクチャー」(インフラ、社会基盤)と呼ぶこともあります。ドーナッツ化現象が進行する前のコンパクトな都市では居住地が集約されているので、インフラストラクチャーの整備が効率的に行われます。ドーナッツ化現象が進行すると住居が広範囲に広がり、そのためのインフラストラクチャーを整備する費用が大きくなってしまいます。一般的にインフラストラクチャーを作る費用は、税金や水道、電気代のようにみんなで負担するお金が元になっているので、効率よく整備することが重要です。
・通勤・通学電車や道路の混雑
都心部には仕事の場となる企業や学校がたくさん集まっているため、通勤・通学の時間帯には、郊外と都心部を結ぶ電車や道路が混雑します。東京の通勤ラッシュ時の満員電車をイメージすると分かりやすいですが、交通機関の混雑には移動時間が伸びたりストレスの原因になったりするという問題があります。
ドーナッツ化現象の問題への対策
ドーナッツ化現象の原動力は、都心部の魅力的な職場で働きたい、郊外の安くて広い家に住みたい、といった人の自然な願望です。日本では、このような願望を尊重する社会システムが採用されているので、行政機関が強制的に郊外の職場で働くよう指示したり、都心部に移り住むように命令したりすることはできません。とはいえ、人々の自然な願望に任せきりでは社会に不利益が生じる場合には行政機関が積極的に対策を講じる必要があります。ドーナッツ化現象への対策としては、魅力的かつ効率的な街が作られるように、公共施設の建設や補助金による移住の促進や企業誘致をすることが挙げられます。
・コンパクトシティ構想とは?
コンパクトシティ構想とは、ドーナッツ化現象への対応策として多くの地方都市で試みられている政策です。コンパクトは「小さくまとまった」という意味の言葉で、ここでのコンパクトシティは、住民にとって有用なものがコンパクトにまとまった比較的小さな規模の街を意味します。コンパクトシティには住宅や都市機能が集約されているので、スプロール現象のところで解説したような、インフラストラクチャー整備の非効率さは生じません。また、他の地域に移動する必要性が少ないので、交通の問題を緩和できる効果もあります。
・コンパクトシティ構想 富山県富山市の例
富山市で進められているコンパクトシティ構想では、公共交通機関の活用が中心に据えられています。富山市の課題は、都心部からある程度離れた郊外に住む人が多く、自動車での移動が必要不可欠な低密度都市(重要な場所が分散して離れている)であることでした。そこで富山市が目指したのは、路面電車やバスを充実させることで、徒歩+公共交通機関の利用で居住、商業、行政、文化などの都市機能にアクセスできるコンパクトな街です。 現在でも、富山市の郊外に居住し自動車での移動を中心としたライフスタイルをとる人は依然多く、構想が具体的な結果に結び付くまでには長い時間が必要だと考えられています。
・コンパクトシティ構想 青森県青森市の例
豪雪地帯である青森市にとって大きな課題となっていたのは、郊外に住む人が増えたことによる除雪費用の負担でした。もし、都市の中心部近くに多くの人が集まって住むようになれば、除雪にかかる費用も抑えられると期待され、コンパクトシティを目指してきました。青森市の構想では、街を「インナー」「ミッド」「アウター」の3種に分類します。中心部のインナーには行政機能と商業施設などを充実させ、外側のアウターでは農地や自然の活用が図られます。しかし、コンパクトシティ構想の目玉として駅前に建てられた商業ビルが経営不振に陥り、多くの税金が投入される結果となったこともあり、現状では構想通りの結果が得られているとは言い難いようです。
一人一人の行動が大きなパターンを作る
巨大な都市とその周囲の地域にドーナッツ型の人口分布パターンが作られるドーナッツ化現象は、一人一人が持つ自然な願望を原動力に進行していきます。ドーナッツ化現象には社会にとってデメリットがあるため、行政機関を中心にドーナッツ化現象を食い止める取り組みがすすめられていますが、期待された結果を得るまでには高いハードルがあるようです。社会全体を効率的に運営していくためにも、ドーナッツ化現象への効果的な対応策についての研究や議論が進められています。