十種競技(デカスロン)とは?走・跳・投の最高峰を決める競技の魅力
公開日: 2019/11/12
陸上競技は、様々な世界選手権大会や日本選手権大会でも特に人気のあるスポーツです。一方で「陸上競技」とひとくくりにするには種目が多く、中にはあまり知られていない競技もあるかもしれません。そんな陸上スポーツに「十種競技(デカスロン)」があります。十種競技は、その名前の通り10種類の陸上競技で勝敗を決めますが、優勝することがとても大変なことから、チャンピオンには「キング・オブ・アスリート」という素晴らしい称号が与えられます。もちろん2021年の東京大会でも話題になることでしょう。「十種競技を制する者が陸上競技を制する」と言っても過言ではない、究極のアスリートを決めるスポーツについて、今回はその魅力に迫ります。
十種競技(デカスロン)とは
十種競技が始まった歴史をご紹介するには、はるか昔の古代五輪から説明する必要があります。紀元前708年に開催された第18回大会から「あらゆる競技で争い、その中で最も優れた選手を決める」ために行われたのが五種競技(ペンタスロン)でした。その競技とは、走幅跳、短距離走、やり投、円盤投の陸上競技4種とレスリングを指します。古代五輪でこの競技種目が考え出されたことから、近代ではレスリングの代わりに短距離(100m)ハードル、中距離(400m)走、長距離(1,500m)走、走高跳、砲丸投、棒高跳の6種目を追加して十種競技としました、陸上競技の全ての要素が詰め込まれたこの競技で優勝するということは、最も優れたアスリートが決まることを意味することから、なぜ「キング・オブ・アスリート」と称えられるのか、その理由もお分かりでしょう。ちなみに十種競技は男子のみ行われます。女子は100mハードル、走幅跳、走高跳、砲丸投、200m、800m、やり投の七種競技で競われ、勝者は男子と同じく「クイーン・オブ・アスリート」と呼ばれます。日本人では、アジア選手権のチャンピオンであり、数々の世界大会でも日本代表を務めた、国士舘大学出身の右代 啓祐選手が活躍中。2019年10月にドーハで開かれた世界陸上にも出場を果たしました。
十種競技のルール
国際陸連ならびに日本陸連が定めているルールをご紹介します。十種競技は競技種目が多いため、男女ともに2日間に競技を分けて競います。また競技種目の順番が決まっています。
十種競技(男子)
・1日目:100m、走幅跳、砲丸投、走高跳、400m・2日目:110mハードル、円盤投、棒高跳、やり投、1,500m
七種競技(女子)
・1日目:100mハードル、走高跳、砲丸投、200m・2日目:走幅跳、やり投、800m
これらの種目を順序よく行うには、独自のルールが細かく決められています。その中から主なルールをご紹介しましょう。一つは、終わった種目から次の種目に移る時は、可能な限り最低でも30分の休憩時間をとること。さらに1日目の終わりから2日目の始まりにかけては、できるだけ最低でも10時間の間隔を開けることが決められています。次に100m、400m、110mハードル、1,500mでは、1レースの中で1回だけフライングが許されます。ただしフライングが許されるのは十種競技のみで、例えば十種競技ではなく一般的なトラック競技として出場する場合は、一度でもフライングをしてしまった選手は失格してしまいます。そして走幅跳と投てき種目(砲丸投、円盤投、やり投)は、各種目につき3回だけ試し投げができます。とは言っても、各種目で試し投げを一度も行わなかった場合は、十種競技自体の出場資格を失ってしまうため、正確には1回以上試し投げをしなくてはなりません。また、十種競技のうち1種目でもレースに出場しなかった場合も、十種競技自体を棄権したものとみなされ、最終順位に加わることができません。順位は、各種目の記録を得点に換算する計算式を利用して合計ポイントで決定します。
【種目別】十種競技の見どころ
陸上の花形と言われる100mの短距離走をはじめ、各種目の見どころを簡単にご紹介します。
100m
速さを競うトラック競技の中で最も短い距離が100mです。ウサイン・ボルトをはじめとした、世界最速のランナーを生み出してきた大会屈指の花形レースです。男子の世界記録は9秒58、十種競技ではどこまで記録に迫れるかが見どころです。
100mハードル
世界最速のスピードを競う短距離にハードルが加わる競技です。いくつものハードルを最適な歩数で超えることが重要です。軽快にバーを越えていく選手たちの脚さばきが見どころです。
400m走
最も長い短距離走と言われる400m走は、100m走の瞬発力を必要としながら、同時に400mを走りきる持久力も求められる過酷なレースです。最初から最後まで全速力で走りきることが難しいため、スピードを出すペース配分や、緩急をつけた走り方など、選手それぞれが工夫して走る姿に注目しましょう。
1,500m走
400mと同様に、最後まで走りきるスタミナと、ラストスパートで必要な瞬発力を兼ね備えた選手が勝利を勝ち取ることができます。ゴール直前だけ頑張ればよいのではなく、スタートしてからゴールまでトップで走り続けるのか、またはスタート時は体力を温存しながら、ゴールに近づくにつれてじわじわと先頭集団に追いつくのか、選手同士の駆け引きが魅力です。
走幅跳
全速力で助走をつけて前方へ飛び、その距離を競います。距離を伸ばすために、自分の気持ちを盛り上げようと観客に手拍子をアピールするなど、選手それぞれのパフォーマンスに注目してください。
棒高跳、走高跳
ポールという長い棒を使ってバーを乗り越える棒高跳と、自分の跳躍力を爆発させてバーを飛び越える走高跳。その大きな見どころは、どの高さのバーまで飛び越えることができるかにあります。また助走のタイミングや走るスピード、バーを超える時の姿勢なども選手によって違うので、見比べてみるのも楽しいでしょう。
砲丸投、やり投、円盤投
「投てき」と呼ばれる種目では、重さのある玉ややり、円盤を、自分自身が回転することにより、できるだけ遠くへと投げる競技です。それだけに、がっしりとした体格のパワフルな選手が登場します。持てる力を最大限に出すための大きな雄叫びと、ダイナミックな投てきの様子は、見ているだけで圧倒されますよ。
どの選手にも、競技ごとに得意なものと不得意なものがあります。世界最高レベルの選手が集まるような大会では特に、選手たちは最も自分が得意とする競技で優勝を目指すものです。そういった意味では、選手それぞれに、種目ごとに得意・不得意のある「十種競技」は、少し変わった競技なのかもしれません。得意な競技はもちろん、苦手とする競技でいかに優秀な成績を収められるか。もしくは、不得意な競技ではあえて力を抑えておき、得意な競技でどれだけ得点を伸ばせられるか…といった、選手それぞれの戦略が勝敗を分けます。加えて、例えば短距離走で活躍する選手と、投てきの優秀な選手とでは使う筋肉が違うため、体格も全く異なります。そんなプレイヤーがトラックに一列に並び、100mのタイムを競ったり、走高跳が得意な細身の選手が、投てきが主力の選手とともに砲丸投げに挑んだりする姿はこの競技ならでは。様々な身体能力を備えたいろんな選手が、自身の不得意や弱点を乗り越え、たった一つの「キング・オブ・アスリート」を目指す。それはどの選手にも優勝するチャンスがあるという希望も意味しているのです。
ライバル関係を超えた、選手同士の絆に感動
2日間のうち最も辛く厳しいレースになるのが、競技種目の最後を飾る1,500mです。ゴール間近は、自分との戦いでもあった2日間がようやく終わりを迎えようとする瞬間でもあります。その頃には勝者・敗者という単純な関係を超え、お互いの健闘を称えあう、選手たちの感動的な姿を目にすることができるでしょう。決して花形の種目とは言えない十種競技ですが、苦手なレースにも挑んでいく、選手たちの勇気に心を打たれるに違いありません。
<参考>公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会『競技紹介 陸上競技』https://tokyo2020.org/jp/games/sport/olympic/athletics/公益財団法人日本オリンピック委員会『競技紹介 陸上競技 混成』 https://www.joc.or.jp/sports/athletics_combined.html 公益財団法人日本オリンピック委員会『競技紹介 陸上競技 フィールド』 https://www.joc.or.jp/sports/athletics_field.html 公益財団法人 日本陸上競技連盟『ルール』https://www.jaaf.or.jp/fan/guide/rule.html